第9章 桜の樹の下で 加州清光②※R18
桜の木の下に立ち、ひゅうがはそこから見える景色を眺めていた。
遠くからでも、本丸の灯りが見える。
今頃、ひゅうがが目覚めたことを知った彼らが、広間で酒を交わしているかもしれない。
「最初はこんのすけと私だけ、その次に清光……」
これからもっと刀剣男士達が増え、この本丸は賑やかになっていくだろう。
ひとりになりたくない。
そう嘆いていた頃が懐かしいと思える日も近いのかもしれない。
ひゅうがは桜の幹に手をつくと、上を見上げた。
ここは、ひゅうがにとって特別な場所だ。
以前、加州が任務先で深傷を負って帰還し、手入れ部屋ではなくひゅうがのもとにやってきた。
加州はひゅうがの顔を見て嬉しげに顔を綻ばせて笑うと、その場に崩れ落ちた。
彼が深傷を負っていると知らないひゅうがは彼の名前を呼びながら駆け寄り、彼の身体を支えた。
加州は肩で息をし、その身体からは血が流れていた。
彼の身体を支えるひゅうがの服にも血が移り、出血量の多さを物語っていた。
「こんなボロボロじゃあ……愛されっこないよな」
そう言って、加州は目を閉じた。
このままでは、加州の身体がもたないだろう。
ひゅうがは泣きながら無我夢中で加州の身体に力を注ぎ込んだ。
「お願い、いなくならないで加州……」
加州が本丸に来てから、彼はひゅうがの支えだった。
いつも優しく、ひゅうがのそばにいてくれた。
けど、どこか一歩引いたような距離を感じることがあった。
そんな彼が、ひゅうがに愛されることを望んでいた。