第8章 桜の樹の下で 加州清光①
こんのすけがひゅうがの部屋の前に着くと、たくさんの花が目に入る。
「……こんなに」
ひゅうがのために刀剣男士達が捧げた花は、色とりどりで美しく、ひゅうがの部屋の前を飾っていた。
「失礼します」
障子を開け、こんのすけはひゅうがの部屋へと入る。
静まり返った室内には、ひたすら眠り続けるひゅうがの傍に加州清光が控えていた。
「……まだ、起きないんだ」
「そう、ですか……」
こんのすけは加州の横に座ると、彼の顔を見上げる。
近侍である加州は、ひゅうがが倒れた時には長期遠征に出ていた為、本丸にはいなかった。
だが、顕現されたばかりの一期一振がひゅうがを抱えて広間へ入ってきた直後、彼もまた広間に駆け込んできた。
遠征から途中帰還すれば、遠征先の資料や刀鍛冶が必要とする資材などは手に入らない。
だが、加州は遠征で得られる全てのものを持ち帰っていた。
このことは彼自身も驚いていたが、こんのすけが驚いたのはそこだけではなかった。
遠征からの帰還は加州の意思ではない。
遠征先で突如、鈴の音が聞こえ、ひゅうがに呼ばれたような声がしたと思っていたら、次の瞬間には本丸に戻っていたという。
それを聞き、こんのすけはひゅうがと加州の間には特別な結び付きがあるのではないかと思っていた。
そして、その結び付きがこの本丸の今後を左右するのではないかとも。