第8章 桜の樹の下で 加州清光①
ひゅうがあまなつを主とするこの本丸は、少しずつではあるが刀剣男士が増え、時間遡行軍と渡り合えるまでに成長していた。
彼女は血筋故に人ならざる力を有しているが、ひゅうが自身は己の力を忌み嫌っている。
自己否定感と承認欲求がひゅうがの心を蝕み、彼女が力を制御出来ていないことが、この本丸の弱点である。
「ひゅうが様の生い立ちは考慮すべき点ではありますが……」
報告書を作りながら、こんのすけはため息をついた。
審神者や刀剣男士達を補佐し、時間遡行軍の動向を記録する以外に、本丸の様子も政府に報告することもこんのすけの仕事である。
歴史を守る為、数多の審神者が任務にあたっているが、時には審神者が歴史修正主義者側に堕ちてしまうことがある。
それを防ぐためにも各本丸のこんのすけ達は、本丸の動向を逐一報告していた。
「……要経過観察ですね」
政府はあまなつひゅうがに多大な期待を寄せている。
だが、彼女の力は諸刃の剣だ。
ひゅうがが今のまま、己の力を制御出来ないと政府が判断してしまえば、危険人物として幽閉されてしまうだろう。
だからこそ、ひゅうがには自分に自信を持ってもらいたい。
自信がないから、自分を愛することも出来ず、他人から愛されてることに気付けない。
「ひゅうが様、貴方様が考えている以上に、この本丸の皆はひゅうが様を慕っているのですよ」
もちろん私もですと、こんのすけはため息混じりに呟いた。
ひゅうがが刀剣男士五振りを同時に顕現させた後、彼女は倒れた。
翌朝になってもひゅうがは目覚めず、そのまま幾日が経った本丸内は時が止まったかのように、静まり返っていた。
誰もがひゅうがを心配し、彼女の部屋の前にはそれぞれが見舞いの花を置いていく。
「どうか……早くお目覚めになって下さい」
こんのすけは願うようにつぶやくと、政府への報告書を片付ける。
ひゅうがのいない執務室は殺伐としており、時間遡行軍の出現報告書が卓に山積みになっていた。
それらを尻目に執務室を出ると、こんのすけはひゅうがの部屋へと向かった。