第7章 歩く姿は百合の花 へし切長谷部※R18
「五虎退っ‼︎」
すでに顕現の間の前には五虎退が座って待っており、その隣には乱藤四郎の姿もあった。
「待たせてごめんなさい」
「あ、主様……、そ、そんな全然待ってません。僕たちもあの……今来たばかりですから」
「主さん遅いよー、僕たち待ちくたびれちゃた」
乱は正直だ。
無理もない、他の兄弟達が来るのをずっと待っていたのだから。
「ごめんね……それじゃあ、顕現させてくるから、ここで待っててね」
ひゅうがは五虎退の頭を撫でると、障子を開け、室内へと足を進める。
中には五振りの刀が並べており、部屋の左右に短刀が二振ずつ、中央に太刀が飾られていた。
ひゅうがは後ろ手で障子を閉めると、深呼吸をする。
この中の何振りを顕現させられるだろうか。
それに、太刀の顕現は初めてだ。
ひゅうがは部屋の中央へと進もうと、一歩足を出そうとした矢先、バリッと稲妻が走ったかのような衝撃に見舞われる。
「あっ……、なに?」
思わず目を閉じてしまい、再び目を開けると、目の前の光景にひゅうがは目を疑った。
「な……なんでっ」
「私は一期一振。粟田口吉光による唯一の太刀。これから弟達共々、よろしくお願い申し上げる」
そして、彼の弟達である平野と前田、薬研に秋田藤四郎がそれぞれ挨拶をした。
「えっと、私は……」
思考が追いつかない。
五振全員が一度に顕現したのだ。
刀のどれにも、触れてさえいないというのに。
先程の中庭のことも関係しているのだろうか。
とにかく、彼らを迎えねばならない。
ひゅうがは彼らと話そうと顔を上げる
「…………っ」
「主っ‼︎」
顔を上げた瞬間、急なめまいがひゅうがを襲い、目の前の景色がグラつく。
立っていられないほどのめまいに、ひゅうがは前へと倒れ、一期一振が慌ててひゅうがを抱きとめる。
「…………き、よみつ」
ひゅうがの手からはチリンと小さな鈴が溢れ、部屋の隅へと転がっていく。
ひゅうがは加州の名前を呼ぶと、そのままくたりと一期一振の腕の中で意識を失った。
第七章 終