第7章 歩く姿は百合の花 へし切長谷部※R18
長谷部は行為を終えると、濡れた手拭いでひゅうがの身体を優しく拭う。
「主、あの花は……主が活けたものですか?」
「芍薬のこと?そうだよ」
長谷部が指したのは、窓際の水盆。
薄桃色の芍薬に、鮮やかに紅い椿が寄り添うように浮かんでいる。
「花はどちらで?」
「芍薬は加州がくれたものだけど、椿は……って、何か変かな?」
ひゅうがは言葉を濁すと、訝しげな表情で長谷部を見る。
「いえ……確か咲く季節が違っていたと思っていましたが、俺の思い違いでしょう。さあ、終わりましたよ」
身体を綺麗にし、出早く白衣と緋袴を着せると、長谷部は手拭いと桶を手に部屋から出て行こうとする。
「それでは失礼します。新しい刀の収集もいいですが、主お世話係であるこの長谷部のことを、どうかお忘れなきように」
「わかってるよ?長谷部だけじゃなく、皆んな私の大切な刀達だよ」
長谷部は障子を開ける手を止め、振り返ると水盆を見やる。
「俺なら……主に百合の花を捧げます」
「え……?」
小さく呟く長谷部に、ひゅうがは聞き返す。
「気高くて、何色にも染まらない純粋さ……百合こそが主に相応しい」
何色にも染まらない。
何人にも侵されない、不可侵の領域。
たとえ身体を繋げても、長谷部にとってひゅうがは純粋無垢なまま、長谷部や他の誰にもひゅうがを染めることは出来ない。
いや、そうあってほしい。
「純粋なんて……褒めすぎ。ありがとう」
ひゅうがは恥ずかしがるように顔を赤らめると、彼女は長谷部を見て微笑む。
ひゅうがの瞳に長谷部だけが写っているのを見て、長谷部は彼女の手を取り、ひゅうがの手の甲へ愛おしむように口付けた。
「ん、長谷部……」
「そろそろ時間です、あまり無理はしないで下さいね」
手を離し、長谷部はひゅうがの部屋から出て行く。
ひゅうがは障子が閉まってもその場に立ち尽くし、口付けされた手を見つめていた。