第6章 座れば牡丹 歌仙兼定※R18
翌日、歌仙は遠征に行く支度をしていた。
胸に挿す牡丹は、昨夜散ってしまった。
いつもあるものがないのは心許ないが、今回ばかりは仕方がない。
歌仙は支度を終え自室を出ようとすると、部屋の外からひゅうがに呼びかけられた。
「歌仙、今少しだけいいですか?」
「主……?」
障子を開けると、ひゅうがが見事なほど美しい牡丹を手に、佇んでいた。
「これを貴方にと思って、歌仙には牡丹が似合っていますから……」
「ありがとう。主は本当に優しいね」
ひゅうがは歌仙の胸元に牡丹を挿すと、彼女は黙り込んでしまった。
「歌仙……、この花が枯れ果てるその時まで、私の側にいてくれますか?私の刀として、一緒に闘ってくれますか?」
「……急に何故そんなことを?花はいつか散ってしまうけど、この命が尽き果てようと、僕は主の刀として側にいるよ」
「……ありがとうございます」
歌仙はひゅうがに微笑むと、いってらっしゃいと歌仙を送り出す。
「ああ、旅先の景色を楽しんでくるよ」
遠ざかる歌仙の背中に、ひゅうがは小さく呟いた。
「私は……ずるいのですよ、歌仙」
身体を繋ぎ、彼らの心を自分に繋ぎとめている。
これからやろうとしていることのために。
「貴方の気持ちに応えてあげれないのに、私と共に在れと命じるような、ずるい人間なんですよ……」
ひゅうがの部屋にある芍薬も、歌仙に捧げた牡丹も、永遠に枯れない。
彼女が望む限り、そこに在り続ける。
「私は……」
神に等しい力、神威の巫女。
彼女はまだ、やるべきことが、残っているのだ。
第六章 終