第6章 座れば牡丹 歌仙兼定※R18
「歌仙、遠征お疲れ様です。怪我などはしていませんか?」
ひゅうがは寝間着に上掛けを羽織り、髪は高く結い上げているせいで、白い細首が月明かりに照らされている。
それだけでも、歌仙の劣情を煽るには充分だった。
なんて無防備なんだろうか。
「……お疲れのところ、来てしまってすみませんでした」
黙り込む歌仙に、ひゅうがはそう言って踵を返そうとする。
だが、歌仙は彼女の腕を掴み、ひゅうがの顎をすくい上げる。
「……主、こんな時間に男の部屋を尋ねておいて、まさか何事もなく戻るつもりではないよね?」
「か、歌仙っ……あっ」
歌仙はひゅうがの腕を掴んだまま、自室へと引き連れた。
荒々しく彼女を床に押し倒すと、髪紐でひゅうがの手を拘束しようとする。
「歌仙……、やめてくださいっ」
ひゅうがは歌仙の身体を力一杯押し返し、必死に抵抗する。
不意にひゅうがの手が胸元の牡丹を払うように触れ、崩れるように花弁が散る。
軽く払われただけに見えたが、先程まで艶やかに咲いていた牡丹は散り、花弁がひらひらとひゅうがの胸元に舞い落ちた。
「どうして……来たんだ」
「最近、元気がないようでしたので……」
以前貸した書物が、知らないうちに手元に戻って来たか、急に借りに来なくなったこと。
歌仙と目が会う度に、思い詰めた表情をしているのが心配だったからだと。
そんなこと、気に留める必要などないと言うのに。
歌仙は唇を噛み締めた。
「僕が君に、どれだけ汚い感情を持っているか……君は知らないだろう」
吐き捨てるように言うと、歌仙はひゅうがを抱き締め、彼女の胸元に顔を埋める。
「僕は君に嫌われたくない」
だから、放っておいてほしかった。
「歌仙……、どんな貴方でも、私は嫌ったりしません」
ひゅうがが歌仙を抱き締め返す。
歌仙は顔を上げ、ひゅうがの顔を見ると、彼女は優しく微笑んでいた。
「きちんと受け止めますから、話して下さい」
「……っ」
もう、手遅れだ。
この黒い感情からは、抜け出せない。
「僕は君を……っ」
壊れるほど、激しくその身体を貪り尽くしたい。