第6章 座れば牡丹 歌仙兼定※R18
「おや?その花は芍薬かい?」
「はい、先月……先日、加州から戴いたものです」
ひゅうがの部屋には様々な時代の書物があり、それを読むのが歌仙の楽しみになっていた。
彼女の部屋はきちんと整頓されているが、飾り気がない。
歌仙は花でも活けようかと思っていたが、ふと窓辺を見ると、芍薬の花が目にとまる。
ビードロの水盆に、桃色の芍薬が一輪浮かんでいる。
まるで、この本丸の紅一点であるひゅうがのようだ。
「……風流だねえ」
簡素だが、それがいい。
この花をひゅうがに贈った相手も、雅がわかるやつだ。
「主は本当に趣味がいい、ここにある書物はどれも興味深いものばがりだし、主とは趣味が合うみたいだね」
「気になるものがあれば、また何冊でもお持ちになって下さい」
「それじゃあ、今日も何冊か借りてくよ。読み終えたら、また返しにくる」
歌仙はいくつか選びひゅうがの部屋を出ると、入れ違いに加州清光が訪れた。
加州清光。
彼はこの本丸で最初に顕現した刀剣男士だ。
歌仙より長くひゅうがと共にいる分、ひゅうがからの信頼も厚いのだろう。
彼以外の者が近侍を務めたことはまだ一度もない。
毎日鍛錬を欠かさない彼は、実力もあるのだから、それは当然のことだろう。
そのことに表立って不満を言う者はいないが、実のところは、加州が主を独り占めしているようで、正直面白くはない。
本丸にいる全員がひゅうがを慕っており、彼女と少しでも話をしたいと思っているのだ。
だからこそ、歌仙は書物を借りる口実の元、ひゅうがの部屋に度々訪れていた。