第1章 初期刀 加州清光①
とある時代の、とある本丸。
虫の音がだけ響く、閑散とした本丸を月明かりが照らしていた。
「誰か……」
少女が小さく呟いた。この本丸の主、ひゅうがだ。
だが、まだひゅうがを主と仰ぐものは誰もいない。
ひゅうががこの本丸にきたのは10日前。
それまでは、年中雪が降り積もる小さな里を守る巫女をしていた。
里の者の怪我を治したり、里の外へ出掛ける者の安全を願ってまじないをする。
巫女のやることは他にもたくさんあったが、辛くはなかった。
巫女は1人だけではなかったからだ。
怪我を治す力の強い巫女、遠くのものが視える巫女、様々な力を持つ巫女が里を見下ろせる小さな杜で共に過ごしていた。
巫女同士で助け合い、里を守る。
それが当たり前だと思っていた。
里の人柱として、湖に沈められるまでは。
里を外部から守る為、結界の役割をしている雪が全く降らなくなったのだ。
原因はわからず、天候を操る力を持つ巫女ですら、状況を変えることは出来なかった。
そこで、里の者からは人柱を立てろと要求され、巫女の中からひゅうがが人柱として選ばれた。
『ひとりになりたくない』
その言葉の直後、ひゅうがは湖へと沈められた。
人柱に選ばれたのは悲しかったが、湖の中で目を閉じ、自分が人柱となることで、里や他の巫女達が幸せになるのならそれでいいと死を受け入れた。
だが、次に目を開けると、ひゅうがは今いる本丸にいたのである。
知らない部屋、見たこともない空が視界に入り、状況がわからない中、部屋の隅にいた狐、こんのすけに告げられる。
「貴方様には、まだやるべきことがあります」
そして、そのために審神者となり、ひゅうがの力で刀剣男士を顕現する必要があるのだと。