第14章 花と鯰 鯰尾藤四郎
やっぱり、兄は弟の涙に弱いのだなとひゅうがが思っていると、抱きしめられたままの鯰尾と目が合う。
ひゅうがと目が合った瞬間、鯰尾の表情は泣き顔から一転、にっこりと笑う。
悪戯が成功したかのように。
「……っ」
鯰尾藤四郎、涙の演技恐るべし。
本心がどこにあるのか、全くわからない。
だが、これまでのやり取りを、ただ黙って見ている骨喰も同じくよくわからない。
ひゅうがに背を向けていて、一期一振の顔は見えないが、この雰囲気ならもう怒ってはいないだろう。
ひゅうがは立ち上がって衣服を整えると、頃合いを見計らって声を掛ける。
「それじゃあ、鯰尾と骨喰はこの部屋を出て。部屋の外で待機している男士に本丸を案内してもらってくれる?」
「はーい」
「了解した」
想定した通りではないが、なんとか上手く収められた。
ふっとため息を着き、続き部屋から鯰尾と骨喰を顕現の間へと送り出そうとする。
「主、お待ちください」
上手く収めた、と思ったが違ったようだ。
振り返れば、一期一振の怒った顔が待ち受けていた。
「後ほどお話があります。何故かは……わかりますよね?」
「……はい」
一期一振を呼んだこと、今更ながらに後悔。
ひゅうがは顔を引きつらせながら、返事をした。
何もしていないのに。
そう思いながら、ひゅうがは鯰尾達を加州のもとへと引き継ぎに部屋を出た。
第十五章に続く