第11章 たきしめる 歌仙兼定※R18
その日、歌仙兼定は食事当番だった。
彼は他の男士達よりも食事当番になることが多い。
朝餉を作るために誰よりも早起きする必要があるが、歌仙は元々早起きなため、さして苦ではない。
むしろ、食事を作るのか得意な歌仙にとっては、馬や畑の当番になるよりかは、食事当番になるのが一番有り難い。
それに、ひゅうがに自分が作ったものを食して貰えるのが何よりも嬉しいのだ。
「……ここまで早く起きるつもりはなかったんだけどね」
昨夜は風が強く、歌仙はいつもより早めに床についた。
そのせいだろうか。普段よりかなり早めに目が覚めてしまったのだ。
「仕方ない……か」
ここまで早く起きたのなら、いつもより凝ったものを作るのもいいだろう。
歌仙は卓士に紙を広げると、献立を考える。
「主が好きな里芋の煮付けを出してあげたいが、つい先日出したばかりだからね……」
いくら好まれているからと言って、同じ物ばかりでは面白くない。
食材や味も季節と同じように変えていくことも大切だ。
「茄子の揚げ浸しにするかな。赤オクラを使うのも面白いだろうね」
歌仙は筆を置き溜息をつくと、外の空気を入れようと丸窓の障子を開けた。
「…………おや?」
部屋に入ってきた風と共に、歌仙にとって覚えのある香りがした。
ほんの僅かではあるが、歌仙にとっては特別な香りである。
「まさか……ね」
廊下側の障子を開け、歌仙は辺りの様子を伺った。
まだ誰も起きていないはずの時間。
誰かが廊下にいれば何かしらの音が響くだろう。