第2章 過去とコンプレックス
「まぁ、無視するほど腹立つか。あんなこと言われたら。」
そういうと私の横にそーっと二本のジュースを置いた。
それを置くと湊はそっと私の元から去ろうとした。
なので私は無言で自分の手を精一杯伸ばし、湊の手を引っ張った。
すると「ごめん。さっきのこと...悪かったと思ってる。許してくれとも思ってない。」湊はそう気まずそうにいった。
私は湊に「私こそ、ごめん。湊の事だから元気づけようとかそうゆうこと、だったんだよね。私その気持ちガン無視してた。」そういうと小さな声で何か聞こえた気がした。
「...そんなんじゃねーよ」
私は「何かいった?」そういうと「何でもない。帰ろうぜ。」そういって湊は私の手首を掴んで引っ張った。
その掴み方は少し痛かったが彼なりの気遣いなんだと思った。
湊は少し不器用なところがある。逢人とは全く正反対なくらいに。
けれどそれがあいつのいいところでもある。
無言の優しさと、包み込む優しさ。
それは一瞬兄弟なのかと思わせるがその二つの優しさは鏡のようで、双子としてお互いにない物を補っていたようにも思えた。
そして私は昔からその、二つの優しさに守られていたんだと思う。
事実今回も私は湊に救われた。
帰りのバスも、彼は私に何も聞かなかったし何も言わなかった。
けれどそれが彼なりの優しさなのだろう。
人の傷には触れない。
それが彼のいいところなのだろう。
けれど、それは人に勘違いをも及ぼす事なのだ。
今までこれだけの付き合いがあって湊のことはそれなりには知っているはずだ。
私なりに。
けれどこの時、私は彼の行動にいろいろと不思議に思うことがあった。
急に抱きしめたりなど今で一度もしたことがなかったから。
だから、
私は彼に隠し事をしていることが少し、
いや、
かなり、
辛くなった。