第2章 牛島若利とマネージャー
「苗字」
空になったスポドリを洗おうと洗面台へを向かっている途中
突如背後から牛島先輩に声を掛けられた
『…?どうしました?』
牛島先輩のことだ
なにか用事でもあるのだろう
そう思い、返事をすると
「……」
返答はなく
無言のままただ此方に近づいて来た
『……?』
普段から多くを話さない人ではあるが
言ってくれなければ用件は伝わるわけもなく
段々と近づく先輩を
黙って待つことにした
そして目の前で止まった先輩に
もう一度同じ質問をする
『どうしましたか?テーピングの場所とかですか?』
なんとなくの予想だけで話してみるが
先輩は首を振り
突然、その鍛え上げられた腕を
此方に伸ばして来た
『!』
その腕は迷いなく私の持っていたスポドリの籠に向かい
私からそれを奪い去る
「俺が持とう」
やっと喋ってくれた
が
『…いや、それ空なんで、軽いので、自分で持てますよ…?』
というか練習戻ってくださいよ
そう抵抗するが
先輩はそのまま早足で洗面場へ歩き出す
「女性に物を持たせるのは駄目だ」
…うん、紳士的で実直な先輩らしいお言葉だ
だけどそれが私の仕事であって
あなたにしてもらっていては
私がこのチームにいる意味がなくなってしまうのですよ
『……あの、ほんと大丈夫ですよ?なんなら女だなんて思って頂かなくても結構ですよ…?』
皆さんには劣りますが
力はある方なんで
なんて言いながら
二の腕を何とか堅くしようと試みる
「……女と思わないなど、今更出来ない。それに…」
急に振り返り、また此方に近づいてくる
私はひょろい二の腕を晒したままの不格好な姿で固まる
そんな私の前に立ちはだかり
脇に手を通し、軽々と私を持ち上げる
『ちょっ!降ろしてください…!』
まるで幼児が父親に高い高いをしてもらっている様な
そんな光景が
とてつもなく恥ずかしく思えた