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短篇集

第6章 『由良の途を』②




「 名前っちって美術部に入るんすか?」

まだ完成してない蒼い油絵をまじまじと見ながら問う


『…別に』

これは「別にアンタに関係ないでしょ」の意味ではなく、正しくは「入るつもりはないわよ」と言いたいみたいだ

「えー、こんなに上手なのにーっ」


勿体なーいっ、と黄瀬は言うけれど
私は、自分の絵を上手い下手で見ていない
心が落ち着くか否か
ある意味麻薬の様な存在なの
精神安定剤…


『どの部活にも入部なんてしないつもり』

そんな、自分から人と関わりに行くような性格してないのはアンタなら分かるでしょ

すると、やはり黄瀬は、その言葉尻を捕らえていた


「人生一度きりなんスよ?んな勿体無いことばっかしててどうするんスか」

いつになく真剣な表情で私を見つめる


…だからなぁに?


『人と関われば私は満足できるの?そんなはずないでしょ。だって誰も、私の事なんか見てくれないもの』


本当の私を、受け入れてくれる人なんていない
こんなにも冷めきった人間…好いてくれる人なんか、今迄いなかった
だから繕い、誰にも本性を悟らせない
そうやって、人を避けてきたのよ


「少なくとも俺は、今みたいな 名前っちの方が落ち着くッスよ…?」


そう言われて初めて、
繕うことを忘れていた自分に気付く

あ…しまった…私としたことが
今迄、誰の前でも体の良い態度をとって来たのに

今、このとき、私は




私のままだった…


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