【イケメン革命】月小屋続編◆返還の祭典【R-18】
第1章 返還の祭典、開幕す。
レイアは午前中のうちに、お茶会の手土産としてシトラスフルーツのパイを焼き、包んでバスケットに入れた。
そして昼過ぎ、往診へ行くというカイルと一緒に馬車でセントラルへと向かった。
「うまそうな匂いだなー…やっと食欲が出てきたぜ」
カイルはくんくん、と鼻を鳴らして言う。
「夏バテ?」
「いや、二日酔いだ」
「……よかった、いつも通りだね」
カイルが苦笑する。
「俺の二日酔いによかった、って言う奴はお前だけだな」
「ふふ…そうかもね。……ところでカイルはいつもこうやってセントラルに往診に行くんだね」
「ああ、まーな。患者は何も赤の領地だけじゃねえ。セントラルにも、黒の領地にもいる。休戦協定からはかなり緩和されて往診も行きやすくなったからな」
「セントラルや黒の領地にもお医者さんはいるでしょ?」
「いるにはいるが……どーも好かれちまうみてーでな」
それは暗にカイルの腕がクレイドル一だということを物語っているのだった。
「カイルのお父さんもお医者さんなの?」
何気ないレイアの言葉に、カイルの表情が一瞬曇った。
(あれ?聞いちゃまずかったかな…)
「あー……まぁな。もう死んじまったけど」
「えっ……ごめん」
「気にすんな。医者の不養生ってやつだな」
カイルはふっと笑って、話を終えるかのように窓の外へと目をやった。
(あんまり聞いちゃいけない話題だったかな…でも万年二日酔いのカイルもかなり不養生でちょっと心配だな)
「お、そーだ…アリス」
「え、なに?」
ふと思い出したようにカイルが視線を戻す。
「ブランのトコに行くんだろ?今夜の酒場は公会堂近くの店に変更って伝えてくんねーか?」
「え?今日も飲むの?」
「当たり前だ、酒のない夜なんてつまんねーだろうが。往診でセントラルに来てる意味がねーよ」
(往診のためなのか、お酒のためなのか、わからないなぁ…)
さすがに呆れ顔を隠せないまま、レイアはカイルの頼みを承諾したのだった。
カイルは公会堂前で馬車を降り、レイアはそのままブランの家の近くまで来て降りた。
手入れの行き届いた庭をくぐり抜け、呼び鈴を鳴らす。
「レイアです、こんにちは」