第7章 近づく ~淡きひかり~
賑わう祭りの市の中を、二人、足早に抜けて行く。
繋いだ手から伝わるひいろの体温が、俺の中の燻る思いに容赦なく火をつける。ひいろの肌を寄越せと胸の辺りが騒ぎ立てる。その思いを打ち消すように、もう一つの手で拳をつくり、強く強く握った。
祭りの喧騒を抜け、人の姿がまばらになった頃、俺は歩みを緩める。足早に歩いていたが、ひいろは遅れることなくついてきていた。
ただ、一言も話さずに唇を噛み、俯いて、俺の手を握る力だけが強くなっていた。
「ことねは、御館様の気に入りだ。皆が世話を焼く」
「…………はい」
「怪我などすれば、一番面倒になるのが家康だからな。用心するのだろう」
「…………はい」
柄にもない、俺の陳腐な言い訳のような言葉に、ひいろは顔を上げずに小さく返事をする。
ゆっくりと歩きながら、小さな社の側で足を止める。社を囲むように木が生い茂る。
もう、回りには誰もいなくなった。聞こえるのは蝉の声と、夜の近づきを告げる風の音。
夕暮れの風が、静かにひいろのほつれた髪を揺らす。