第5章 【番外編】いろは屋
~☆ 【番外編】いろは屋にて ★~
「…………………と言うことです」
時は、番頭の一之助が光秀を訪れ、帰宅したすぐ後。
一之助は光秀との話を全て、吉右衛門と大番頭に報告していた。
「イチ、お前は本当にそれでいいのかい?」
「いいもなにも……吉右衛門様、これは必要なことですから」
「………じぃも何か言ってやっておくれ」
吉右衛門は困ったように眉を寄せて、じぃと呼んだ大番頭を見る。じぃは、唸ったまま目を閉じる。
ここは、いろは屋の奥座敷。主人の吉右衛門が住居として使う間の一番奥。今いる三人以外、ひいろさえも余り訪れたことはない。密談するには最適な場所。
家族以上の繋がりがあるからか、三人だけになるとなんの気兼ねもなく、思いをぶつけ合う。
「イチ、前にも言ったが、私はお前とひいろが添い遂げてくれれば、それが一番だと思っているんだよ。」
「はい」
「なのに、光秀様にひいろを抱けとは……。お前の想いはどうなってるんだい!」
「まぁまぁ」
少し声を荒らげる吉右衛門をじぃが静かになだめる。
「私の想いは何も変わりません。ひいろ様がいれば他に何も……。どんな形であろうと、最後まで側にいるのは私です」
「ならば、何故?」
「ひいろ様の心が、思いが大事だからです。あの方の心が死んでは意味がない。」