第24章 願い2
そのままゆっくりと撫でていると、ことねは目を閉じ眠りについた。穏やかな寝息に安堵し、小さくため息をつく。
結局の所、ことねに言い聞かせていることは、自分自身に向けてのこと。目を覚まさぬひいろの側で何もできぬ苛立ちと焦りを抱え、離れることさえ許されぬ今、ことねの存在が待ち続けるだけの俺に望みをくれる。ことねを撫でる指先から伝わるぬくもりが、叫び出しそうになる思いを包み込む。
規則的に聞こえる寝息を確認すると、そのまま起き上がり、ことねから少し離れて座り、大きく息をはく。ことねのぬくもりの残る掌を見つめ、ひいろの肌を思い出す。
あの時家康の腕に抱かれ、眼を開けないひいろの肌が、そのぬくもりさえも手離しそうに見えて、怖いと感じた。ひいろを失うことが怖いと…
ひいろを思いながら、指先に僅かに残ることねのぬくもりにすがる自分が浅ましく思えたが、今はそれでもいい…。そうでもしなければ、何をしだすか分からないほどに、腹の底に渦巻くどろりとしたものが、更にその黒さを増していた。
守ってやれなかった
何よりも守りたかった
俺が守るはずだった…
どうしようもない苛立ちを握り潰すように、強く拳を握る。
早く、目を覚ませ
早く目を覚ましてくれ
ひいろ…
肌に爪がくい込むのを感じながら、また大きく息をはいた。