第22章 動く4
「死なせるわけないでしょ。二人とも連れて帰るんですよ」
そう言いながら家康は跪くと、俺の腕の中にいることねの身体を手早く確認する。
「寝息たててるし。この状況で寝れるなんて、さすがことね」
あきれたような声で言いながらも、その眼差しは優しく、最後にことねの頬を軽く撫で立ち上がる。
「もっと早く来ていれば……」
呟くようにそう言うと、今度はその手でひいろの首筋に触れ、口元に近づき呼吸の様子を確認する。
「あんたをこんな姿にさせること、なかったのかな」
下唇を噛み苦しそうにひいろを見る家康の姿に、何かが胃の腑の辺りに巻き付いてくる気がした。
「……家康様、ひいろはことね様を守り、自分の思いを貫いたのです。どうか、憐れむことはなさらないで下さい」
「憐れむ?そんなんじゃない!!」
吐き捨てるように冷たく放った一之助の言葉に、家康が語気を荒げる。
「ひいろの思いを大事にするのもいいけど、命を落とせば全て終わりだ。そのくらいわかるだろ!!」
「……わかっています。
わかっていますが、私ではこの子の思いを止められない!!だから、あなた方に止めて欲しいと頼んでいるのです!!この子が、ひいろがもっと自分自身の命に執着できるようにと……」
そう言うと一之助が、震える手でひいろの頬を撫でた。
「この子を失うことなど……あり得ない」
呟くように一之助の口からこぼれた言葉が、胸の奥へと深く沈み込む。
口を閉じた家康の代わりに、遠くから騒がしい足音と、俺達の名を呼ぶ供の声が聞こえて来た。