第22章 動く4
倒れきる前に何とか抱き止める。
余程の思いでいたのだろう、指先は白くなり握っていた痕がしっかりとついてた。
「よく堪えたな」
そう小さく呟き、ことねを抱き上げると、ひいろの元へと急ぐ。
蒼白い顔の一之助の胸の中に、それよりも白い肌のひいろがいた。呼吸は浅く、拭いきれない血の痕があちらこちらを赤黒く染めていた。
開いてはくれないその瞼や唇に、胸の内をえぐり取られるような感覚になる。ことねを抱きかかえたまま、ひいろの頬に触れる。指先にわずかな温もりを感じそのまま指先を首筋へと滑らすと、規則的な動きに触れ安堵する。
「生きていますよ」
思いもよらないあたたかな声が聞こえ、顔を上げると一之助が泣き出しそうな顔で微笑んでいた。
「ひいろは、生きていますよ」
自分に言い聞かせているのか、俺の心の内を見透かしているのか、ゆっくりと確かめるように一之助が繰り返す。
初めて見る一之助の顔に、何故だか少し肩の力が抜ける。この男もこういう顔をするのだと思うと、僅かに自分の口角も上がっていた。
ひいろの髪についた乾いた血を拭いながら、それに気がついたのか一之助がいつもの顔に戻る。
「死にませんよ、ひいろは」
「あぁ」
祈るような思いは同じようで、互いの眼を見つめ真顔になる。
「当たり前ですよ」
どこかで手を清めてきた家康が、ため息とともに不機嫌そうに言った。