第21章 動く3
瞼を閉じ息を深く吸い、ゆっくりと細く吐く。
「行くぞ」
瞼を開き低くそう言うと、家康と一之助が小さく頷く。御館様に一礼し立ち上がると、吉右衛門が深く頭を下げた。
焦れているのは家康だけではない。ここにいるものは皆、同じ思いだろう。これ以上、時を無駄にはできない。
「俺たちも行くぞ、三成」
「はい」
続くように政宗が三成を促し、二人も御館様に一礼し立ち上がる。
「頼むぞ」
歩き出そうとする俺たちに向け、秀吉の一声が背中を押す。
「心配はことね達のことだけにしとけ。お前の分まで暴れてきてやるからな」
「お任せください、秀吉様」
政宗がにやりと笑って見せると、三成も微笑んで頷く。
「すぐに二人を連れてくるので、部屋の用意しといて下さい」
二人に続くように、家康も殺気立った瞳のまま答える。
「そうだな、頼まれるか」
そう言う俺と眼が合うと、秀吉は眼をそらさぬまま頷いた。自分の分まで俺に託すとでも言っているように見えた。
城を預かるのは秀吉が適任だろう。本人もそれは心得ている。ただやはり待つ身となると、不満が残るのだろう。送り出そうとする眼のその奥に、そんな思いが見え隠れする。
「貴様ら、愚図愚図するなよ」
そう言って立ち上がる御館様に、秀吉がはっとしたように深く頭を下げた。
「信長様、御武運をお祈りしております」
「すぐに戻る。宴の支度でもしておけ」
「はっ!」
更に深く頭を下げる秀吉しに、御館様は小さく笑い声を和らげる。
「秀吉、お前がいるから俺は行くのだ。頼むぞ」
「…はい!」
御館様の言葉に嬉しそうに表情を明るくした秀吉を残し、俺達は座敷を後にした。