第20章 動く2
「まさか囮に……」
「さぁねぇ、詳しいことはなにも。ただ、織田の姫様も一緒にと」
「何? 」
突然女の口から出た言葉に、鼓動が一気に跳ねあがる。
「うちの嬢と織田の姫様が一緒に拐かされた。確かなことはそれだけですよぅ」
「織田の姫……ことねのことか……」
「おや、主様も顔色が変わることがあるんだねぇ。随分とまぁ姫様が大事ってことですかねぇ」
そう言うと女の指先が俺の顎を捉え、鼻先に顔を近づけてくる。
「姫様のことばかり見てないで、嬢のこともちゃんと見てその眼に映して下さいな。そちらの大事な姫様だけでなく、うちの嬢も必ず連れて帰って下さいよぅ」
微笑んで見せてはいるが、隠しきれない殺気が見え隠れして、首筋を刃で軽く撫でられるような感覚をおぼえる。
「信用できぬなら、自分で行ったらどうだ」
「できるならそうしてますよぅ。けどねぇ、あたしにはあたしの仕事があるからねぇ。番頭さん怒らせると大変なんですよぅ」
殺気を誤魔化すようにそう言うと、女は軽く俺の腕を撫で身体を離した。撫でられた腕をふと見ると、いつの間に結んだのか緋色の布が結ばれていた。