第19章 動く
月が雲に隠れる夜、辺りが寝静まるのを待ち荷船が一艘とある店の裏へと近づいてくる。それを待っていたかのように店の裏木戸が開き、中から男が数人現れると持っていた箱を荷船へと積み始めた。
どこかで犬の遠吠えが聞こえる。それを合図に俺の隣に潜んでいた者が闇へと消えていく。今頃対岸にいた者も動き出しただろう。
暫くし、箱を積み終えた荷船が動きだす。闇へと吸い込まれるように消えて行く荷船を見送り、耳を澄ます。犬の遠吠えが少し遠のいて聞こえた。
あの荷の行き先に目指す男がいるのか。その尻尾を掴むため俺は安土を後にして来た。今は何かを考えるより、あの男を追う方がいい。俺らしくあるために。
程なくし、闇の中より声がする。
「戻りました」
「ご苦労」
「荷船は町外れにある屋敷の裏手につけ、荷はそのまま蔵の中に運び込まれました。町人らしき者の姿しかなく、今夜は動きはないようです。明日、屋敷の探りを致します」
「荷の中身は?」
「恐らく金かと」
「情報の通りか」
「はい」
「引き続き頼む」
「はっ」
そう語ると声の主は、また闇の中へ。俺はその場を後にする。