第18章 【番外編】いろは屋~その3~
「いい男だね」
「そうですね。こちらからのつなぎはいつものように。出立は、明朝」
「はいよ」
「では」
「待ちなよ」
そう言って立ち上がる番頭を夜菊が呼び止め、足元の着物をはだけ白い肌を惜しげもなく投げ出すと、濡れた瞳で甘い声を出す。
「今日は、遊んでかないのかい」
「……お嬢様がおりますので、またにします」
「残念だねぇ」
「お気をつけて」
それでも引き留めるように夜菊が、言葉を続ける。
「どこかのいい男のお陰で、嬢も随分と女振りが上がったねぇ。気が揉めるんじゃないかい、番頭さん」
「気が揉めることなど何もありません。あなたに心配されることもありません。では」
番頭は表情を変えることなく一度眼鏡を直すと、静かに帰って行った。
一人残された部屋で、夜菊がまたちびりちびりと酒をなめる。
「また、ってのは……いつになるんだろうねぇ」
誰にも届かぬ声で、小さく呟きながら。