第18章 【番外編】いろは屋~その3~
小さく返事をしてひいろは口を閉じ俯いた。それを見て、遊女はまた酒を呑む。
「そのお人の特別になれなかったから……ようは、嬢は期待をしていたわけだ」
「期待?」
「そうさ、こうありたいと思う期待、願望だよ。それはけして悪いことじゃない。だけどさ、相手がいるならそれを求め過ぎてはいけないよ。相手が思うことも別にあるんだから」
「求め過ぎ……」
「あたしらみたいな商売見てたら分かるだろ。過度な期待は身を滅ぼすよ。まあでも、あれか、嬢は堅気の娘さんだ。うーんと悩んでいい女におなり」
「悩んで、いい女?」
「そうそう、いいんだよ、悩めば。自分に向けられた好意にはさ、甘えて傷ついてみるのだっていい。やったことないだろ?でもさ、最後には拗ねずにちゃんと向き合いな。きっとそのお人のこと、憎からず思ってんだろ」
「……よく分からないんです」
「分からなくてもいいさ。嬢は嬢らしくあれば。あたしらみたいな手練手管使おうなんて、まだ早い。まずは考え過ぎずに、素の思いをぶつければいいんだよ。それで嫌になったら、また此処においで。あたしがみんな飲み込んでやるから」
「……はい」
「よし、いいこだ」
そう言って笑った後、遊女は襖の方をちらりと見る。