第14章 離れる2【家康編】
「掴まって」
そう言って、ひいろを横抱きに抱き上げる。驚いた顔のひいろをそのままに、早足で歩き出す。
「秀吉さん、先に行きますから」
「わかった。だが、あんまり乱暴に歩くなよ。ほら、あまり揺らすな!」
焦った秀吉さんの声に胸の中のひいろがまた笑う。
「なに?」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
熱のせいなのかいつもより無防備に見えるひいろの雰囲気に、今更のように鼓動が高鳴る。それが胸の中のひいろに届かないか心配になったけど、辛いのかひいろは目を閉じて身体をあずけてきた。
小さくため息をつき、ひいろを抱き直す。
今のため息は、俺自身へ向けたもの。
自分本位な俺への嘲り。
ことねのことを想ったまま、それでもひいろを離せない俺への……
後ろから続く秀吉さんの足音に我に返る。
今はまず、戻ってひいろを休ませよう。俺のずるい思いよりまずはひいろの身体をなんとかしてやろう。
ひいろの身体が揺れないように、先程よりも速度を上げ歩き出す。
「家康、あまり慌てるなよ!ちゃんと周りを見て行けよ、おい、家康!」
慌てて追いかけてくる秀吉さんを残し、先を急ぐ。
でもその時、俺は気が付いていなかった。
自分のことばかりしか考えていなかったから、声をかけてきた時の秀吉さんにも、後ろを歩く秀吉さんの表情にも。
秀吉さんが俺とひいろの全てを見ていたことにも。