第13章 離れる【光秀編】
昨日の御館様の命を受け、今日はひいろと一之助が登城してくる。指定された座敷に向かい、俺は歩みを進めていた。
久しぶりにひいろと会い、揺れ動く己の心をもてあまし、昨夜は一晩中月を眺めて酒を舐めていた。
そんな時間が役に立ったのか、若造のように落ち着かないふわふわとした想いは、夜の闇に溶け込むようにゆっくりと静まっていった。
今日またひいろに会ったなら、俺はどんな心もちになるのだろう。
誰にも分からぬよう胸の内で呟き、前を向く。
ふと見た視線の先に、見慣れた背中が二人並んで立っていた。
ことねと家康だ。
今日のことねは、織田の姫としていつもより華やかに着飾っており、その美しさに息をのむ。隣の家康に何か言われたのか手を伸ばし、赤い顔をして家康の着物の袖を引っ張っている。家康は迷惑そうな顔をして見せているが、その視線が優しそうにことねに注がれているのが見てとれた。
ひいろに口づけたその口で、家康はことねに何を伝えているのだろう……
一瞬、どろりとしたものが胸の奥から這い上がってくるような気がしたが、これから自分も同じことをするのかという思いにたどり着き、小さくため息をつく。