第9章 【番外編】触れる ~家康編~
突然のにわか雨。
人々が天を仰ぎ、足早に雨をしのぐ場所を探し、駆けて行く。
もちろん俺もその一人。政務の帰りに、ふと思い立ち、いろは屋に立ち寄ってみたが、ひいろは光秀さんの所へ出掛けて、留守だった。当てが外れた俺は、大番頭との話も手短に切り上げ、帰ることにした。
別に、どうしてもひいろに会いたかった訳ではないし、特別な用があったわけでもない。ただ、何となく気になっただけ……。
夏祭りで見た、髪をあげ、嬉しそうに浴衣姿で光秀さんと話すひいろ。あんな顔、初めて見た。俺の方が、光秀さんよりも早く、ひいろと出会っているのに。
俺と話す時には、うつむいて小さな声で、あんなに嬉しそうな笑顔見せたことない。
なんだか分からない、もやもやした気持ちが生まれ、なかなか消えずにいた。
ひいろに会えば消え去るのかと思い、会いに行っても会えないままで、時間だけが過ぎていた。
「まったく。なんなの、これ」
強くなった雨粒へなのか、燻る気持ちへなのか、そんな言葉を投げ捨て、俺は雨宿りの場所を探し、足を速めた。