第8章 触れる
頬に触れていた指先は、眉毛、まぶた、鼻と、ゆっくりとおりていく。
「綺麗な…お顔……一度触れてみたかった……」
優しく俺の顔に触れながら、ひいろが吐息混じりに囁く。
指先が唇に触れる。ゆっくりと紅を引くかのように、繰り返し繰り返し撫でていく。その甘い痺れのような感覚が、俺の欲を呼び戻す。
軽く口を開くと、ひいろの指が立ち止まる。中へ入ろうか躊躇しているその指を、軽く噛み、ちろりと舌で舐めてみる。
「んぁっ……」
驚いたような、吐息のような声を出し、反射的にひいろが手を引く。
「お前の指は、甘いのだな」
「みっ光秀様……」
「もう、終わりだ。十分に堪能できただろう」
「終わり、ですか……」
「あぁ」
ひいろは自分の胸の前で、俺の舐めた指を隠すように、もう一方の手で握った。
微かに染まったひいろの頬を両手で、そっと挟み込む。
「あっ、あの……」
「そのまま待て。今、手拭いを取ってやる」
両手の中にある、ひいろの顔を見る。
言葉を続けようとして半分開いた唇が、何かを待っているようで、そそられる。
そっと近づき、その唇に微かに触れるだけの口付けを落とす。手の中のひいろの頬が、わずかに動いた。