第8章 触れる
「光秀様に頂いた花簪をもう一度お見せしたくて、本日は浴衣で参りました」
そう言ってひいろは、嬉しそうに頬笑み、結い上げた髪に挿した朝顔の花簪に軽く手を添える。
「あぁ、良い仕事のものだ。本物の朝顔のような清々しさがある」
「はい、家康様にも褒めていただきました」
「家康?」
ひいろの口からでたその名前に、一瞬小さく息をのむ。そんな俺には気づきもせず、ひいろは嬉しそうに続ける。
「はい。お祭りの翌日にお見えになって、浴衣と花簪を褒めていただきました」
「家康が、翌日にか」
「どこかに行かれる途中だったようで、すぐ帰られてしまったそうですが……言伝てで褒めていただきました」
「会えなかったのか、残念だったな」
「はい……」
家康を思ってか、ひいろが憂いを含んだ笑みを見せる。胸の奥に青白い炎が灯り、じりじりと身体の奥を焦がしているような気がした。
家康が、翌日に会いにか……
たまたまか……意味をもってか……
青い炎が大きく燃え上がり、また胸を焦がす。