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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第17章 Cold water(福沢諭吉)


「ねぇ、社長。」

 隣のソファで足を揺すっていた深愛が私を見た。

「ちょっとお休みをいただきたいんですが。」

「…どうかしたのか?」

 私が聞くと、彼女は頷く。

「昔同じ孤児院にいた友人が、久しぶりに会わないかと言ってるんです。彼、今は和歌山に住んでいるらしいので、ちょっと旅行がてら会いに行こうかと。」

「なるほど…わかった。取り計らっておこう。」

 …その彼というのが誰なのかというのは聞いた方がよいのだろうか。

 しかし、聞いたら聞いたで信頼していないみたいにはならないだろうか。

 もんもんと考え込んでいると、深愛がグラスに入ったオレンジをつまみながら言った。

「…真人くんですよ、ほら、前にフルーツをくれた。」

「…あぁ、果樹園で働いている男か。」

 度々社に大量の果樹が送られてくるのは、深愛宛てに彼から送られてきたものなのだと彼女から聞いた。

 新聞に出ていた彼女を発見し、入社祝いに送ってもらってから文面上の関係が続いているようだった。

「…社長、今ちょっと不安になったでしょう?」

「………。」

 子猫のように悪戯っぽい顔で見つめられ、居心地が悪くて目をそらす。

「んふふ…。」

 楽しそうに笑う彼女の頭に、悪魔の角が揺れているのが見える。

 ついでに尻からは先のとがった尻尾が生えている気がした。

 ため息混じりに彼女の頬をなでれば、気持ちよさそうにすり寄ってきた。

 こいつが数日間いないのか、と。

 少し寂しく思う。

 しかし、そこで突然、私はあることを考えつく。

 当日彼女が目を見開く様子を思い浮かべながら、私は再び仕事に取りかかった。
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