第2章 Quit (太宰治)
「太宰さん、お茶が入りましたよ。」
かたん、と置かれたティーカップからは、香り立つ、と言ったところで、一体何ティーだろう、と視線を移す。
「桜の花を使っているんだそうです。いい香りですよね。」
向かいの席の敦君にもお茶を出しながら、彼女は言った。
ウエストがしまった、花柄のワンピースが揺れ、私は椅子を動かすと、ついうっかり、といった調子でそれをめくる。
「太宰さん!?」
思わず落としかけたお盆を慌てて支えた敦君が、何事かとこちらを見る。
「どうかしたんですか?」
「な、なんでもないの…。」
たじたじになって誤魔化した深愛に、私はにっこり笑って言い放つ。
「敦君、今日の深愛君は水色のレースだよ。」
「え?えぇえ!?」
真っ赤になった敦君に、深愛が座り込む。
「あ…明日からはジーンズ着てきます。」
「じゃあシャツをめくらないとだね。」
そんなことを言っていた時だった。
ジャキン、と嫌な音がして固まる。
そっと視線を横に移せば、案の定大きな包丁が真横に。
「太宰、妾の前でセクハラかい?いい度胸じゃないか。」
「いやいや、かわいい恋人へのスキンシップだよ…与謝野先生。」
「八つ裂きか、一物切り取るか、特別に選ばせてやろう。」
どちらかといえば八つ裂き…なんて冗談はさておき、太宰は早々に白旗を揚げる。
深愛に謝罪を述べれば、もうやめてくださいね、とやんわり釘を刺される。