第12章 Paris (織田作之助)
「…パリに…。」
「え?」
俺の唐突な言葉に、彼女が目を見開く。
「パリに行こうか。パリと言っても、郊外の自然豊かな…あぁ、湖なんかがあればいい。その湖畔に立つテラスで俺は小説を書き、お前は俺の横にいる。…それで十分なんじゃないか?」
「パリに…。」
彼女が顔を上げ、ポツン、と言う。
「…子供がほしいな。」
「あぁ、そうだ…は?」
「織田作に似た男の子がいい。」
「…ろくな奴にならないぞ?」
これは相当酔っているな、と赤い唇を見ながら思う。
「織田作が小説書く横で、私はゆりかごを揺らすの。貴方のお父さんは立派な人なんですよ、って言いながら。」
白い喉元を晒してカクテルを仰ぎ、それを飲み干すと、彼女はこちらを向いた。
「…そんな未来が来るのかな。」
「来るさ。いつかマフィアなんかやめて、二人でパリに住んで。」
そして言ってやるんだ。
俺たちの方が幸せだぞって。
深愛を引き寄せると、そっとキスを落とす。
甘いカクテルの香りと、濡れた唇が俺を誘い、俺はしばし、彼女の甘さに酔いしれた。
(さらってやるさ、どこへでも。)