第12章 Paris (織田作之助)
「酒の稀に美女。いやぁ、いいねぇ。」
そんな爺臭いことを言ったのは、マフィア最年少幹部の太宰だ。
グラスを煽り、むふふ、と笑う。
「それが織田作の女なのがしゃくだけども。ついでに蛞蝓野郎の右腕なのも気に入らない。」
「よりにもよって人の上司を蛞蝓呼ばわりですか。確かに地位的には貴方の方が上ですけど。」
そう言った彼女は、ねぇ?と俺を見る。
「そうだな。中原幹部はマフィア一の体術使いだろう?蛞蝓ではないんじゃないか?」
「じゃあ、双黒(小)。」
「私よりは大きいですから。」
「だって君155cmしかないじゃない。中也に育てられたからなんじゃないの?」
「家系じゃないですか?母も小さかったような気がしなくもないですし。」
太宰に淡々と反論する彼女は、どこまでも上司思いだ。
育ての親のようなものだと言うのだから、自分を孤児たちが慕うようなものなのだろう。
そう思うと微笑ましく、俺は目を細めて彼女を見つめる。
「織田作、顔が気持ち悪いよ。」
「太宰さん!さっきから人の悪口しか言ってませんよ。もう少しポジティブに生きましょう。あと織田作はいつだって格好いいです。」
間髪入れず叫んだ彼女に、頬のゆるみが止まらない。
確かに気持ち悪い顔かもしれない、と自分でも思う。
「わぁお、ナイスノロケ。私お邪魔だしもう帰っていい?」
あきれたような顔で言う太宰に、俺は目を少し見開く。
「なんだ、もう帰るのか?まだ三杯しか飲んでないだろ。」
「いやぁ、実はねぇ、今日は心中してくれそうなお姉さまがいるのだよ。ここから三軒となりのバーだ。」
「それは仕方ないな。頑張れ。」
「念願じゃないですか。まぁ、どうせまた明日中也さんをからかいにやってくるんでしょうけど。」
カクテルをちまちまと飲みながら彼女が言い、太宰はニヤリと笑う。
「深愛君、死んだら帽子置き場をからかうこともできないのだよ。もちろん、君に会うことも、織田作とこうして飲むこともね。」