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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第10章 Let me love you (中原中也)


「くくっ…こりゃヤベェな。」

 自らの背を守るように後ろに立つ深愛をチラッと眺め、中原は笑いを漏らす。

「笑ってる場合ですか、中也さん。ここには太宰さんもいないんですよ。Qの異能の暴走だなんて、指揮を執っていたのはどこの馬鹿やろうですか。」

「俺じゃあねェ。恐らく紅葉の姐さんだが、姐さんがそんなヘマするとも思えねェ。姐さんの留守中にQが勝手に暴走したんだろ。これだからあのチビは嫌ェなんだ。」

 大陸の大きな街。

 遠征に出ていた姐さんが、相手の異能との相性がよくないからと、指揮官交代を首領に進言したのは二日前。

 そして中原と深愛がその役に抜擢されたのはつい昨日のことだ。

 そして先ほどたどり着いた港では、ふざけた手形の痣を浮かべた一般人が殺しあいをしていた。

 これはまずいと、重力操作で深愛もろとも浮き上がった中原でさえ、冷や汗が止まらない。

 姐さんが帰ったのは二時間前。

 つまり、中原たちがここに来るまでのせいぜい一時間半の間に、何かが起こった、ということになる。

 まぁ、そのなにか、などどうでもいいのだ。

「この件に関しちゃ俺よりテメェだな。」

「そうですねぇ…異能力の強化形態を使えば果たして…。」

 そう言った深愛に、中原は笑いを漏らす。

「前に使ったときは何人やられた?」

「五百人弱…。けれど死にはしませんし…ちょっとおかしくなるだけで。」

 こいつの異能力の強化形態は盛大に周りを巻き込む。

 それはもう、街を生物的に絶滅に追い込んで、宗教一つ作り上げるほどに。

「いいんですか、この港使えなくなりますよ。」

「…長く持った方だが仕方ねェ。全員死ぬよりゃマシだろ。」

 中原がそう言うと、そうですか、と言って深愛がビルの上に降りる。

 そして静かに告げた。

「異能力強化形態…『アビゲイルの讃美歌』発動。」
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