第5章 Closer (中島敦)
彼女の一挙一動に一喜一憂する日々は、甘美なようで、時々苛烈な切望を生み出す。
もっとそばにいたい。
僕だけを見ていてほしい。
他の誰の目にも留まらないどこかへ、隠してしまいたい。
そんなありもしない切望と、淡々と過ぎる現実は、残酷なまでにすれ違い。
またあんなに君は囲まれてる。
なんだかずるいじゃないか、と。
僕だけが好きみたいで、なんか悔しいし。
不満混じりのため息が、今日も密かに漏れていく。
「…どうかしたの。」
隣にいた、鏡花ちゃんにまで心配される始末。
「なんでもないよ。少し疲れただけ。」
笑顔を作って応えると、そう?と言いながら僕の視線の先を見る。
そして、納得したように頷いた。
「深愛さんが人気者でもやもやしてる?」
「うっ…!」
図星を突かれて思わず唸ると、後ろからひょい、とナオミさんが顔を覗かせる。
「敦さんと深愛ちゃんは一時期同じ孤児院にいたんでしたわね。で、今は僕の恋人のはずなのに、なぜ僕ではない人と話しているんだろう…!」
「ナオミさん…僕の心の声を口に出すのやめてください…。」
「似てる…。」
似てないから、と鏡花ちゃんに釘を刺せば、ぶんぶんと首を振られる。