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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第23章 The heart wants what it wants


 例えばの話。

 私があの時もう少し早く現場に駆けつけていたなら。

 例えばの話。

 私があの時強化形態を迷わず使っていたなら。

 貴方はこうはならなかったのかな。

 相手が悪かったのだと。

 社長は言った。

 深愛のせいじゃないと。

 乱歩さんはそう言った。

 私があの時一緒にいればと。

 太宰さんはそう言った。

 力になれなくて悪いねと。

 与謝野さんはそう言った。

 死んだわけじゃない。

 もう会えないわけでもない。

 わかってはいるけれど、目の前でただただ昏睡する彼を見ると、どうしようもなく悲しくなる。

 相手の異能は、敵を昏睡させ、二度と目を覚まさなくさせるものだった。

「…起きて…潤くん…。」

 彼の手を握り、そう呟くが、もちろん応答はなく。

 なんでこうなっちゃったかなって。

 そんなことばっかり考えてる。

『この異能にかかったものは、ほとんどの場合目覚めない。しかし、ごく稀に異能を破るものがいる。けれど、目が覚めても気が狂っているらしい。』

 太宰さんの言葉が反芻し、泣きたくなる。

『…そのあと3日生きた人間はいないよ。みんな自殺だ。…私にその異能がかかれば、大団円だったのにね。』

 太宰さんらしい皮肉めいた言葉に、珍しく悔恨のような色が浮かんでいたのを思い出す。

 動かない、ただ呼吸だけを繰り返す潤くんを見つめ、私は涙を落とす。

「…眠り姫みたいにキスで目覚めればいいのに…。」

 愛しくて、愛しくて。

 だからこそ苦しくて。

 今まで受け止めて、飲み干してもらえていた愛がただただ自分の中に降り積もっていく。

 苦し紛れにキスを落としてみるけれど、やっぱり彼は目覚めなかった。
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