• テキストサイズ

【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第20章 Kiss me quick(太宰治)


「ねェ、深愛。」

「はい、太宰さん。」

 にこやかに私が彼女の名前を呼び、彼女もにこやかに答える。

 しかし、私の腹の中が真っ黒であることは、彼女にはお見通しなのだろう。

「キスしたいなァ、とか言ってみたり?」

「お断りします、とか言ってみたり。」

 きっぱりと。

 そう微笑んだ彼女に、私はむむ、と眉を寄せる。

「何故だい?」

「お仕事中なので。」

 給湯室の台所。

 二人きりの狭い部屋に、妙な沈黙が流れる。

 程よく筋肉の付いた足の間に、後ろから私の膝が入れられており、彼女はキッチンに向かったまま少しも動くことができない。

 そして私もまた、それを逃すまいと微動だにしない。

「いいかい?唇が触れ合うだけだ。大したことじゃない。」

 ちょっとしたスキンシップだよ、と。

 そう言うと、彼女はくすりと笑った。

「…なら、私が国木田さんとしても怒りませんよね?」

 私は恋人としてのスキンシップは仕事中だから嫌だったんですよ。

 彼女に言葉に、してやられたと思う。

/ 133ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp