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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『サムライ、足元を見られる』


ロシアに来た礼之は、リンクの女子達から黄色い声援を受けるようになった。
その真面目な性格と卓越したスケートセンスに加え、お菓子作りが得意というギャップも彼の人気に拍車をかけていたのだ。
「ねぇ、今度の日曜日に一緒に出かけない?観光がてら色々案内してあげるわよ」
「え?」
中でも特に積極的な1人の女子から、練習後リンクサイドの片隅で強引ともいえるアプローチを受けていた礼之が困惑していると、そこへ不機嫌そうな表情のユーリが割り込んできた。
「コイツは日本からスケートやりに来てんだ。お前みたいな見境なく男追っかけてる女の相手してる暇はねぇんだよ」
「なっ、何よ!」
ユーリの鋭い眼光に、その女子は僅かに怯みながら2人の前から逃げるように立ち去る。
呆然と彼女の後ろ姿を見送る礼之を一瞥すると、ユーリは更に眉を逆立てて詰め寄った。
「お前もヘラヘラしてねぇで、ちゃんと意思表示しろ!ンな甘い顔してっから、バカがつけ上がるんだ」
「勿論断るつもりだったよ。ただ、あのコ物凄いマシンガントークで…」
「とか言いつつ、満更でもなかったんじゃねぇのか?」
「僕にはユリがいるから、それはないよ」
さらりと返された言葉の爆弾に、ユーリは仄かに染まった頬を見られまいと、礼之から顔を背けた。
そのまま空いてる椅子に腰を下ろした2人は、リンクでの事を話し合う。
「流石はロシアだよね。覚悟はしてたけど想像以上の厳しさだったよ」
「でも、食らいついてるじゃねぇか。最近じゃ俺がヤコフにどやされる度、お前の名前を出す程だ」
「そうなの?でも、僕はユリに認めて貰えるのが一番嬉しいかな」
この年下の恋人は、臆面もなく小っ恥ずかしい台詞を平気で口にするから嫌になる。
そして、そんな彼の事を内心で喜んでいる自分自身にも。
「…何?」
突如もたれ掛かってきたユーリに、礼之は動揺する。
「今、お前は俺の抱き枕だ。枕が口聞いてんじゃねぇぞ」
「はい」
言いながら更に己に身を預けてくるユーリに、礼之は帽子とベンチコートで恋人の姿を覆うと、その温もりと感触を堪能していたが、

「──まだまだ詰めが甘いわね」

コートでは隠し切れなかったブレードカバーに見ないふりをしながら、リリアが2人の前を通り過ぎていった。
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