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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『ロシアのネコ侍』


「はじめまして、伊原礼之と申します。君のご主人のユリとお付き合いをさせて頂いております。えーと…『猫によろしく』?」
「なんだそりゃ」
「小さい頃、お祖母ちゃんに買って貰った本の主人公がそう言ってた…わっ!?早速肉球の洗礼が!」
「爪出てねぇから心配すんな」
ロシアに短期スケート留学に訪れていた礼之は、初めてユーリの部屋に案内され、そこで彼の飼い猫とも対面した。
猫の目線に合わせるように座礼する礼之の顔に、猫が無表情のまま前足を伸ばしたのである。

猫は礼之の周囲を一頻り値踏みするように回ると、やがて自ら礼之の膝に乗って喉を鳴らせてきた。
「よかった!僕、認めて貰えたみたいだね」
猫のオモチャを手に遊ぶ無邪気な礼之の姿を、ユーリも安堵の息を吐きつつ眺める。
「可愛いなあ。ちょっとムスっとしながらも、こっちに寄って来る所なんか、ユリそっくり♪」
「うるせぇ。お前ん家は動物飼ってねぇのか?」
「ウチは、金魚の『枕崎さん』だけだね。犬猫への憧れもあるけど、僕含めて留守の多い家だから。特に妹の部屋は、ミシンや布とかが満載だし」
礼之の妹は服飾デザインの学校に通っているので、彼女の自室は課題制作の生地や道具等で溢れ返っているのだ。
「猫には宝の山だろうけど、そんな事になったら多分メルちゃんの心臓が持たないと思う」
「…その科白は、洒落になんねぇぞ」
彼女が軽い心臓疾患を持つ事を知るユーリは、彼女の兄のブラックジョークに渋面を作りながら返した。

その後、コーチのヤコフからかかってきた電話に出る為一旦別室に移ったユーリが再び部屋に戻ると、それまでベッドをソファがわりにして猫と遊んでいた礼之が、居眠りをしていた。
昨日までハードなトレーニングやレッスンで疲れたのだろうと思いながら、礼之の身体に毛布をかけようとした所、彼の胸元で寝息を立てている毛玉を見つけた。
「…好みのタイプは一緒なのか?だけど、そろそろ交代だ」
飼い主の気配と声に目を覚ました猫は、少しだけ名残惜しそうにひと声鳴くと、ベッドの角へと移動する。
その姿を満足そうに見送ると、ユーリはすっかり寝入っている礼之の隣に身体を横たえた。
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