第2章 僕とおそロシア
『旅立ちの時・2』
「僕は、ヴィっちゃんの時には何もしてやれなかったから、今度こそちゃんと見届けたいんだ。僕と…僕の大切なヴィクトルに最大の愛を与えてくれたマッカチンに」
勇利の言葉にヴィクトルも漸く顔を上げると、マッカチンの身体にブラッシングその他を施した。
箱の中で眠るマッカチンは、まるで今にも起き出してきそうな程自然で穏やかな表情をしていたが、身体に触れた時の冷やかさは、それを残酷なまでに否定していたのだった。
その後、事態を知ったユーリにヤコフ、ギオルギー達が続々と弔問に訪れた。
「マッカチンよりも先に、儂の所にお迎えが来ると思っていたのだがな」という冗談とも本気ともつかないヤコフの呟きに、弟子という名の問題児達が半泣きで食って掛かるのを、勇利と純は苦笑しながら眺める。
やがてデリバリーで取り寄せた夕食を済ませ、最後まで残っていたギオルギーとユーリを見送った3人は、はじめは少量の酒を肴にマッカチンの思い出話に浸っていたのが、徐々にリビングのあちこちに空瓶が転がる程、互いの犬バカ談義へと発展していった。
「犬の寿命は判っとんねん!せやけど、しゃあないやんか!この子がええ、世界一かわええ、ずっと一緒にいたいて思うたんやもん!」
「もっと遊んであげたかったとか、傍にいてやれなくてゴメンねとか、心残りもいっぱいあるけど…最後には『おいの所ば来てくれて、有難う』しかなかと!」
「そうだよね!俺だって、マッカチンに最期に言いたいのは『有難う』だよ!でも、でも…っ!」
犬バカ3人の泣き声や笑い声にグラスのぶつかる音は、その晩延々と繰り返されていた。
冷たく重苦しい眠りから漸くマッカチンが目を覚ますと、傍らに2匹の犬が、尻尾を振りながら寄り添ってきた。
1匹は愛嬌たっぷりな笑顔を浮かべているミニチュア・ブルテリアで、もう1匹は、まるで自分を小型にしたようなトイプードルだった。
勇利達を通じて2匹に見覚えがあったマッカチンは、暫し彼らとじゃれ合うと、やがてそんな彼らの先導で、天に続く虹の橋を渡って行った。