第2章 僕とおそロシア
『シンデレラは、やっぱり不在』
更衣室の廊下に片方だけ転がった靴を、たまたま通りかかったギオルギーは拾い上げる。
サイズからして女性のものらしきそれは、程よく使い込まれていて、持ち主のセンスの良さも醸し出しているようであった。
「…フッ、随分と慌てん坊のシンデレラもいたものだ。おそらく今頃は、リンクで踊っているのかな?」
王子様ならぬコーチから、銀盤のプリンセスになる為に厳しいレッスンを受けているシンデレラの姿を脳裏に浮かべながら、ギオルギーはもう一度含み笑いを漏らした。
「…どないしよう。めっちゃ行きづらい」
「さっさと声かけりゃいいじゃねえかよ。それは自分のだって」
「ホント、お前って足小さいよね。レディースもいけるんじゃない?」
「実家の姉ちゃんと喧嘩した時には、よう腹いせに彼女のブランドもののブーツ履いてやったから、こっちのサイズなら余裕やろな」
「そんな事して、お姉さんに怒られなかったの?」
「後で死ぬ程どつかれたわ」
まるでガラスの靴を扱うが如く、落とし物を手にするギオルギーを、純達は壁に隠れて眺めていた。
※足のサイズ(24cm)と、笑うと右側だけにできる笑窪は、主人公のコンプレックス。