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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『Rival』


「ふーん、お前がユウリ・カツキか。ぼーっとして大した事なさそうな奴」
GPSロシア大会の抽選後、今季シニアデビューしたロシア選手の挑発に、勇利は少しだけ目を丸くさせると口元を綻ばせる。
「何だか懐かしいね」
「…言いてぇ事は判るが、今は俺の黒歴史に触れないでくれ」
そんな選手を後ろから軽く小突きながら、ユーリが渋面を作った。
かつてのヴィクトルと同い年になった勇利は、ベテランの風格と未だ世界チャンプの名を恣にしているが、オンとオフの落差が激しいので、リンクの外では今ひとつ頼りなげに見えるのは仕方ない。
「いやいや。いきなり足が出ないだけ、かつてのユリオより全然マシだよぉ♪」
「まあ、シニアデビューしたての子が、背伸びする気持ちは判るけどなあ」
今季それぞれ勇利のSPとFSの振付を作った純とヴィクトルは、いきり立つその選手を和やかな気持ちで眺めていたが、勇利が席を外した後で飛び出した彼の暴言に表情を変えた。
「ケっ、年下に挑発されて何も言い返せねぇでやんの。あんな奴、試合で大失敗して足でも捻ればいいんだ…いってぇ!?」
直後先程よりも鈍い音が響き、その選手は頭を抱え悲鳴を上げる。
「何しやがる!?」
「俺も、お前くらいの時はそうだったけど…」
「昔のユリオはもっと酷かっただろ?」
「ジジイは黙ってろ。クソガキだった頃の俺ですら、アイツの失敗や怪我を望んだ事なんざ、一度もねぇぞ」
「…あ?」
怒りを帯びたユーリの眼力に怯みながらも、反抗的な態度を崩さないその選手に、純は僅かに目を細めながら近付いた。
「ええか。ライバルいうんは、自分が『敵』として相応しい力を持ってこそ成立するんや。相手の失敗を望んだり喜ぶような腐り切った性根のクズを、一体誰がライバル扱いしてくれるんやろなあ?」
目が笑っていない純の笑顔に、その選手だけでなくユーリも昔を思い出して凍りついた。

勇利をはじめ、他の選手達の圧倒的な力を見せつけられたその選手は、すっかり萎縮してしまった結果、ほろ苦いデビュー戦となった。
「…言わんこっちゃねぇ。ま、これでアイツも良い薬になっただろ」
言いながらも、会場の隅でベソをかく彼の元へ足を急がせるユーリを、勇利達は微笑ましげに見送っていた。
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