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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『女帝と異邦人』


純の依頼でユーリと始めた日本語のレッスンが、片手の数に達したある日。
ヤコフとリリアに呼び出された守道は、彼らの値踏みするような視線を臆する事なく受け止めていた。
「センセーは怪しくなんかねぇ!俺に日本語を教えてくれてるだけだ!」
「貴方は黙っていなさい、ユーリ」
「センセーが悪者扱いされてんのに、黙ってられっかよ!」
業を煮やしたリリアは、尚も口を挟もうとするユーリを退出させると、改めて守道を見る。
彼女の意図を理解した守道は、自分のパスポートをはじめ留学先の学生証やビザ等身分を証明するものを、ヤコフ達の前に出した。
「ふむ、学生証もビザも問題ない。見かけによらず、随分と優秀なようだな」
「この名前…もしかして貴方は、あの大使の…?」
リリアの言葉に、守道は片眉をつり上げる。
「…父をご存知なのですか?」
「やはりそうでしたか。昔、貴方のお父様がソ連の日本大使館で書記官をしていた頃、何度か公邸主催の晩餐会でお会いした事があります」
懐かしそうに語るリリアを見て、ヤコフも少しだけ態度を軟化させた。
「悪く思わんでくれ。我々は立場上、どうしても外部の人間は疑わざるを得ないのだ」
「いいえ。国を代表する若きアスリートに、得体の知れない外国人がつき纏っているとあっては、当然の事です」
「それもこれも、ユーリが貴方との事を何も話さないのが悪いのです。全くあの子ときたら…」
ドアの向こうにいるであろう悪童に視線を送りながら、リリアは溜息を零した。

その後、解放された守道はユーリと大通りを歩いていた。
「内緒で勉強したかった気持ちは判るけど、君は未成年なんだから、コーチ達には話すべきだったよ」
「悪かったよ。でもヤコフ達の許可も貰ったし、これからは堂々と通えるぜ」
悪びれずに返すユーリに、守道は苦笑する。
「そういやババアが、センセーに『お父様にくれぐれもよろしく』だってさ。センセーの父ちゃんって、何やってんだ?」
「…モスクワで働いてるよ」
「そうなのか?俺も実家がモスクワなんだ。いつかじいちゃんにもセンセーの事紹介出来るといいな」

無邪気に話すユーリとは対照的に、守道は「妙な繋がりが出来てしまったな」と内心苦々しく思っていた。
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