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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『あちらを立てればこちらが』


「センセーって同じ大学にいたのに、サユリのスケート見た事なかったのか?」
「恥ずかしながら。日本では人気あるとはいえ、サッカーや野球に比べるとマイナースポーツだしね」
ユーリの日本語のレッスンを済ませた守道は、彼と一緒に学生寮近くのカフェで昼食を取っていた。
「君のコーチからも結構なお手当を頂いてるから、もう奢ってくれなくていいんだよ?」
「それじゃ、俺の気がすまねぇ。センセーの教え方上手いし、留学生って物入りなんだろ?」
「はは、10代の若者に気を遣わせちゃったな」
レッスンを始めたばかりの頃は、それが授業料代わりだったのだが、程なくしてそんなユーリの行動を知ったヤコフやリリアにより、相応の報酬を頂くようになったのだ。

ゼミから異例の抜擢でロシア留学した自分の元へ、先輩である純からユーリの日本語教師の依頼を受け、それと同時にある種予想していたが、一番聞きたくなかった言葉を添えられた。
『僕は、スケートの世界で生きていく事にした。せやから、もうゼミには戻らへん』
人生における二種類の後悔の話をして、当時膝の故障で燻っていた純に競技復帰を焚き付けたのは、他でもない自分である。
だがそれは、やり切ってから辞めた方が後腐れないだろう、という気持ちからだった。
純の事を、『優秀なゼミの先輩』としか知らなかった守道は、スケーターとしての純の実力や、競技その他にかける想いを理解しておらず、長い間公式戦から離れていた純が、まさか全日本選手権まで進めるとは思っていなかったのだ。
全日本選手権をTVで観戦していた守道は、そこで渾身の演技をする純の姿を目の当たりにして、圧倒されると共に己の言動を心の何処かで後悔していた。

「今の純先輩を見てれば、結果オーライだというのは判るけどね」
「俺も、サユリと会わなかったら今頃どうなってたか…センセーとも知り合えたしな」
「そうだね…」
ロシア語で返した守道は、直後ボソリと日本語で呟く。

「『だけど、代わりに俺はあの人を失った』」

それはごく微かな声だったが、以前より日本語の上達したユーリには聞き取れ、何処か寂しげな守道の横顔を見て怪訝そうに眉を顰めた。
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