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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『静かなるカチコミ』


「だーれだ?」
「…純!?」
突如背後から目隠しをされた勇利は一瞬だけ慌てるも、ロシアに拠点を移してから滅多に聞く事のなかった流暢な日本語を直接耳にすると、弾かれたように友人の名を呼んだ。
「大当たり♪待たせてごめんなあ、勇利」
シベリア鉄道経由というとんでもないルートで漸くピーテルに到着した純は、荷物を滞在先に置いた後、直ぐに勇利達のいるリンクへと向かった。
そこで何処か物憂げな顔でリンクに佇む勇利に気付くと、早速スケート靴に履き替えて、彼に背後から近付いたのだ。

「少し痩せたんと違うか?デコは何処におるん?」
「ヴィクトルは、今日は取材で出かけてる」
「ほんなら自主練なんか。コーチのクセに何しとんねん」
「仕方ないんだよ。ヴィクトルは忙しいし、選手と僕のコーチなんてとんでもない二足の草鞋を履いてるんだから」
「例えそうでも、決めたからには任を全うする義務はあると僕は思うけどな」
淡々と返しながら、純は浮かない表情のままの勇利を見ると、彼の手を取って暫しリンクを周回する。
「早速勇利への新たなEXプロを披露…と言いたいトコやけど、まずはその辛気臭い顔を何とかせんとな」
「辛気臭いって…」
「お腹も空いてるんと違う?ちょうどお昼やし、これから僕と外へご飯食べに行こう」
「え?」
「気分転換も、スケーターの大事な仕事やで?そんで、僕と日本語で目一杯話そか。ご希望とあらば、頑張って標準語でもええで」
「ぷっ、そこはいつも通りでいいよ。だって純の標準語って、どっかぎこちないもん」
「あ、言うたな!」
「…有難う、純」

突如現れて勇利を連行した東洋人に、周囲は思わず注目する。
「あれが上林か。勝生同様大人しそうな顔をして、中々のスキルの持ち主のようだな」
「あら、判るの?」
ギオルギーの呟きに、ミラが不思議そうに問う。
「先程、勝生に背後から結構なスピードで近付いたのに、殆ど氷を削る音がしなかったからな」
「言われてみれば…」
「やっと来たか、サユリ。待たせやがって」
口ではそう言うものの、何日かぶりに勇利の笑顔を見たユーリは、こっそりと安堵の息を吐いていた。


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