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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『泥酔と白鳥と湖』


ヤコフの所有するコテージに勇利やヴィクトル達と一緒に招かれた純は、敷地内にある別棟のホールで酒宴を楽しんでいた。
簡単なコンサートができるようになっているそのホールには、アップライトピアノとギター、チェロがあり、時折ピアノが趣味の純や、楽器の嗜みのあるギオルギーによる演奏で盛り上がる。
白夜の時期に入ったのもあって、夜中でも外の景色がハッキリと確認できた。
「何や不思議な気分になるわ。人間だけでなく、動物も体内時計狂ってるんと違うかな?」
「こげん明るかと、あの湖の向こうから白鳥ばやってきそうやね」
呂律の怪しくなり始めている勇利と一緒に窓から湖を眺めていると、「愛人が俺の勇利と何コソコソやってんの?」とヴィクトルが割り込んで来た。
「なあ、ここの湖って白鳥おるん?」
「さあ?遠目に見た事はあるけど」
純の問いにそう返したヴィクトルに、「あ~、おいのヴィクトルは今夜も美しか~」と、ほぼ泥酔モードに移行しつつある勇利が抱き着いた。
「も~♪普段はそんな気の利いた事言わないクセに」
「なあなあ。ヴィクトルの白鳥ば見たかと!踊って!」
いつかのバンケの如く、目を潤ませながら見上げてきた勇利に、ヴィクトルは困惑する。
「踊ってさぁ~ヴィクトル♪純はピアノ!」
「え、僕も?」
床に坐り込んで手を叩き始めた勇利に、ヴィクトルと純は顔を見合わせる。
「…飲ませた『デコ』にも責任あるんやから、付き合い。貴方も手伝うてくれへんか?」
ギオルギーにチェロ演奏を頼んだ純は、ピアノの前に腰掛けると、「パブロワはん、堪忍。これは瀕死やのうて『泥酔の白鳥』や」とサン=サーンスの有名なメロディを奏で始め、それに合わせてヴィクトルも踊り出した。
「流石やな。今すぐ『トロックス』入団できるんと違うか?」
「あの技術は凄いけど、俺の美意識とは合わないよ」
即興にしては巧みなセッションに魅入っている勇利の背後で、それまで居眠りをしていたユーリは身を起こすと、何となく窓の外に目をやった後で呆然と呟く。
「…白鳥の団体が来てんぞ」
「「マジで!?」」
「ヴィクトルは、白鳥の使いやったとね~?」

思わず演奏と踊りを止めた一同の視線の先には、湖岸からこちらの様子を胡散臭げに窺っている白鳥の集団がいた。
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