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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『となりのコーシュカ』


「これ!きなこちゃん、あーかーん…って、違う!ユリオくん、それやめて~」
バレエスタジオのピアノで「アレグロ・アパッショナート」を弾く純の隣に腰かけていたユーリは、ちょっとした悪戯心から鍵盤の上で巧みに指を滑らせている彼の袖を軽く引っ張った所、耳慣れない日本語が聞こえてきた。
「何だ?今の」
「…何でも。手元狂うからやめて、て言うただけや」
純の後輩で、現在ピーテルの大学に留学している守道に日本語を習っているユーリだが、関西訛りのある純の日本語は判り難い言葉が多い。
まるで何かを誤魔化すように話を打ち切って演奏を続ける純に、ユーリは小首を傾げた。

「なあ、センセー。『きなこちゃん』って、何の事か判るか?」
練習のない週末に、守道の暮らす学生寮で日本語のレッスンを受けていたユーリは、先日の謎について尋ねてみた。
「きな粉はきな粉としか…」
「だってサユリが俺に言ったんだ」
「純先輩が?…ああ、それ多分先輩が実家で飼ってる猫の事だと思うよ」
「サユリも、猫飼ってんのか?」
「昔は犬もいたらしいけどね。確か先輩のSNSに動画が…」
言いながら守道が見せてきたスマホに、部屋でピアノを弾く純の姿が映っていたが、再生から暫く経ってベンチタイプのピアノ椅子に、何かが飛び乗ってきた。
『…きなこちゃん、あかん。これ、きなこちゃん!』
その名の通りきな粉色をした毛並みの猫が、純の手元や鍵盤にちょっかいを出す度に、聞き覚えのある単語が純の口から繰り返される。
その内まともに演奏できなくなってきた純の左腕に『きなこちゃん』が飛び乗った瞬間、「やめてきなこちゃん、愛が重いの、愛が!」と堪え切れずに笑い出す動画の純とは対照的に、ユーリの眉毛は逆立っていた。

「てめぇ、サユリ!誰が猫だゴルァ!」
「守道ー!僕に無断で何バラしとんねん!」

レッスン終了後。
カフェのカウンターテーブルで、守道は両隣からの日露二ヵ国語の罵詈雑言を聞き流しながら、黙々と食事を続けていた。
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