第1章 僕と勇利、時々『デコ』
※こちらは過去の日記からの再録です。
『3月の風物詩』
四大陸選手権終了後間もなくロシアに拠点を移した勇利は、そこできたるワールドへの最終調整を行っていた。
『勇利、元気か?いよいよワールドやなあ。今回はそっちから会場まで近いし、調整も楽でええん違うか?』
ネット通話越しに見るかつての同期の笑顔と久々に聞く日本語に、勇利も自然と顔が綻ぶ。
「うん。日本から行く事を考えるとね。純は今どうしてるの?」
『僕、今週卒業式やってん』
「あ、おめでとう。純の学校って…毎年卒業式がカオスなトコだよね」
『そうか?芸大や美大の方がもっと凄い思うけど。まあ、僕は大学院やから大学とは卒業式の日程違うたし、大人しいモンやったで。僕も全然フツーのカッコで出てたから』
「え?まさか普段着とか?」
『一応総代やったから、流石にそこまでラフには出来ひんかったわ。これ着てたん♪』
言いながら純はPCのモニタ越しに、スマホに撮った自分の卒業式の画像を勇利に見せる。
「ちょっと地味過ぎて、逆に浮いてしもうたかも知れへんわ」
「…これで『地味』なんだ」
そこにいたのは、ハンチング帽を被り、白のスタンドカラーシャツを長襦袢代わりに着物と袴と防寒用マントを纏った近代書生風の純の姿であった。
更に、何故か昼間なのにバスローブ姿のまま濡れた髪を拭きつつ、勇利の背後から覗き込んできたヴィクトルが、「ジャパニーズキモノ!」と、やや興奮気味に勇利にも着用をせがんで来たが、それはまた別の話である。
主人公の通ってた学校は、『某日本一参加条件の厳しいコスプレ会場』をモデルにしております。