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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『乗り越えるもの』


「サユリ、風呂お先…って寝てやがる」
アイスショーに向けて純の作った振付を滑り込むユーリは、ある日純の滞在先であるアパルトメントに泊まらせて貰った。
そこで一緒に夕食を作ったり、勇利やその他共通の知人との話題で盛り上がった後、先に入浴を済ませたユーリがリビングに戻ると、そこには床で居眠りをする純がいた。
「おい、起きろ。ンなとこで寝てたら身体痛めるぞ」
疲れているのか、ユーリが軽くその身を揺するも、純は目を覚まさない。
彼の周囲に散乱するタブレットや振付やスケートに関するメモらしき書類を拾い上げると、ふとユーリの視線の先に、Tシャツにショートパンツというラフな格好で眠り続ける純の無防備な膝が映った。

純の膝には、過去に靭帯を全断裂した時の傷が生々しく残っている。
最早復帰は絶望とまで言われていたが、最後の最後に1人の競技者として全日本のリンクに戻った純は、そこで自分の現役生活に終止符を打ったのである。
動画で観た純の現役最後の演技は、完璧とはいかぬものの、勇利とは違った魅力を帯びてこちらの心に訴えかけてきた。
もしもユーリがこれ程の怪我を負ったとしたら、果たしてスケートを続けられただろうか。

『あの怪我さえなかったら、純は世界でもっと活躍出来たと思う。でも、それだと純はきっと学生卒業でスケート辞めちゃってたから、今のような関係にはなれなかっただろうね』
いつか勇利が言っていた通り、純のこの怪我がなかったら、こうして今自分の振付を手掛けて貰うどころか会う事すらなかったのだ。
「神様ってたまに残酷だよな…でも、俺はそんな神様の徒があったからこそ、サユリに会えたんだ」
純に毛布を掛けながら、ユーリは神妙な面持ちで呟く。
「お前は、こんな俺を見捨てず付き合ってくれた。だから、その礼はこれからスケートでキッチリ返すぜ。そして、いつか…」
そこで少し気恥しくなったユーリは、続きを心の中で呟く。
(いつか、この俺がお前の振付で金メダル取ってやるからな)
すると、眠る純の口元が僅かに笑みの形に綻んだ。
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